
執筆: API総研編集部
はじめに
API利用に関連した訴訟・紛争事例は多くはありませんが確かに存在します。
特にAPI提供終了時の措置や事前コミュニケーション等がリスクとして顕在化しやすいため、Webサービスのエンドユーザー向けの利用規約・プライバシーポリシーの設定は一般的ですが、APIに対しても個別の規約を設けたり、APIを利用するパートナーとの個別契約を締結するなどで訴訟・紛争のリスクを低減することが重要です。
実際に利用規約に盛り込んでおくべき項目については別の記事でも解説していますが、本記事では実際に発生したAPI関連の訴訟や紛争事例から、利用規約・プライバシーポリシーやパートナーとの個別契約による訴訟リスクの低減方法について解説します。
訴訟・紛争事例
ADP vs. Zenefits(2015年)
概要:
ADP(給与計算・人事管理SaaS)とZenefits(HR関連SaaS)間でのAPIアクセス紛争。Zenefitsは顧客企業の人事・給与データ連携のため、ADPのシステムにエンドユーザーアカウントによる代理ログインでアクセスしたが、ADPはセキュリティ・契約上の問題を理由にアクセスをブロック。双方が訴訟を起こした。ADPはAPIを提供しておりパートナーシップ契約を締結すれば利用可能な状況であった。しかしパートナーシップ契約には決して安くはない費用が必要だった。
争点:
- ZenefitsによるADP顧客アカウントへのアクセス権限有無
- 利用規約やパートナー契約におけるデータアクセス範囲
- 顧客データへの「代理アクセス」の正当性
結果:
最終的には和解に至ったと報じられ、明確な判例形成はなし。ただし、BtoB間でのAPI利用条件やデータアクセス権限の事前明確化、公開APIの利用義務化などが重要であることが浮き彫りとなった。
利用規約・プライバシーポリシーでのリスク低減策:
- サードパーティがシステムにアクセスする際、公式APIを使用することを規約上で義務付けることで、不適切なアクセスを防止
- 顧客側の利用規約にも、サードパーティサービスによる代理アクセスの禁止を明記し、API利用を促す
- 紛争時の仲裁条項や明確な解決プロセスを規約に盛り込み、訴訟を回避
Zoom vs. RingCentral(2021年頃)
概要:
RingCentralはZoomのAPIを利用し、ビデオ会議機能を自社顧客に提供していたが、契約終了時にZoomがアクセス制限を試みたことが紛争に。RingCentralは顧客保護を理由に利用継続を主張し、法的対立が発生。
争点:
- API利用契約の終了条件
- 顧客影響を考慮したサービス継続の要否
- 商業的関係解消後のAPI使用権限
結果:
最終的に和解。公的な明確判例にはならなかったが、契約終了時のAPI利用停止手順や顧客データ移行に関する事前合意の必要性を示すケースとなった。
利用規約・プライバシーポリシーでのリスク低減策:
- 利用規約でAPIの仕様変更・提供終了時の事前告知期間や終了時措置を明示(◯日前までに告知します〜等)
- 顧客通知期間や代替手段提供などSLA(Service Level Agreement)に反映
- 契約終了時のデータ処理方法・責任分担を契約で明確化
RedditのAPI利用制限問題(2023年)
概要: Redditは長年APIを無料で公開し、サードパーティアプリが発展していたが、2023年に大幅な利用料金導入・制限強化を発表。ユーザーやコミュニティが反発し、一部サブレディットがブラックアウト(抗議行動)を起こす社会的問題に発展。
争点:
- 一方的な料金・利用条件変更の是非
- エンドユーザーが依存するサードパーティアプリへの影響
- コミュニティ期待値とプラットフォーム収益化戦略の衝突
結果:
法的訴訟ではないが、広範なユーザー反発とメディア報道を招き、Redditはイメージダウン。一部のサードパーティアプリは閉鎖や有料化を余儀なくされた。プラットフォームとユーザーコミュニティ間の緊張が残った。
利用規約・プライバシーポリシーでのリスク低減策:
- 大幅なポリシー変更時、事前周知期間を十分確保
- 開発者・コミュニティへのフィードバック収集プロセス
- 料金・制限変更の条件やタイミングを利用規約に明記
Twitter APIの利用制限・有料化問題(2023年)
概要: Twitterは以前、開発者やユーザー向けに比較的自由なAPIアクセスを提供していた。しかし2023年頃から無料利用廃止・有料化を強行し、多くのボットや分析ツール、アクセシビリティ対策ツールが利用不能に。ユーザーから批判続出。
争点:
- 突然の無料枠廃止・有料化による依存ツール停止
- ユーザーエクスペリエンス悪化とエコシステム崩壊
- APIポリシー変更の正当性と開発者コミュニティへの影響
結果:
法的訴訟事例は確認されていないが、Twitterは開発者・ユーザー反発を招き、ブランド価値や開発者エコシステム活力低下に直面。利用者離れや批判が起きた。
利用規約・プライバシーポリシーでのリスク低減策:
- 料金変更・利用制限導入時の明確な移行計画
- 小規模開発者向けの特例措置やテスト枠の検討
- 事前の段階的変更とコミュニケーション強化
まとめ
これらの事例はいずれも、APIアクセス条件やポリシーを変更・制限・終了する際に生じる問題です。法的訴訟に至るケースも、社会的反発・信用低下で終わるケースもありますが、共通して見える課題は「透明性」「事前周知」「利用者ニーズの考慮」「契約や規約での明確な権利義務設定」が欠かせない点であると言えます。利用規約・プライバシーポリシーやパートナー契約を適切に整備し、トラブル発生時にはユーザーとの対話を通じて、リスクを低減していきましょう。
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